第16回(令和6年)受賞者
前年中に刊行された短歌・俳句に関する文芸作品の中から最も優れたものを顕彰する小野市詩歌文学賞の受賞者が決定しました。
短歌部門
該当なし
俳句部門
池田(いけだ) 澄子(すみこ)
『月(つき)と書(か)く』
受賞理由:高野 ムツオ
池田澄子の俳句は明るい。けれどどこか寂しい。軽いリズムに乗ってはいるが、時々涙声が混じる。あけっぴろげなユーモアに満ちていたと思えば、裏に怒りの鋭い批評の矛が隠れていたりする。それは彼女がこの世で出会い、そして、この世から去ってゆく身近な事象や人間を心から愛しているからだ。その出会いと別れのあいさつとして俳句が詩想豊かに書かれている。『月と書く』はそんな世界が、年齢を重ねてより軽やかに、より深みを増した句集である。
口語新仮名遣いで俳句を作るのは難しい。ともすると俳句が蓄えてきた表現の伝統をないがしろにして、単に気の利いたナンセンスで低俗な世界にとどまってしまう危険を伴うからだ。しかし、池田澄子は口語体に季語、切れ字、そして、文語や漢語まで混合駆使して、言葉の練度を高め、独自の世界を創り上げたのである。『月と書く』のタイトルがそれを象徴している。
受賞コメント
第16回小野市詩歌文学賞をいただきありがとうございます。小野市の詩歌を志す者への励ましとご理解を、美事なことと尊敬し遠く眺めておりました。その志に関わらせていただき光栄です。私は、俳句形式に対して失礼にならないようにと深く思いながら、しかし無難な安心からは遠いものを求めてきました。
拙著は、コロナウイルスの猛威で、人が人に逢えなくなって、濃く人を思った日々、更には戦争という愚行を繰り返す人間への怒りと嘆きによって書かざるを得なかった俳句でした。「わび」にも「さび」にも遠く書かざるを得なかった各句を、受け止めて下さった選者の先生方に、心より感謝しております。ありがとうございました。
更新日:2024年04月01日