尋常小学算術~日本初のカラー教科書~

 

国定教科書が修正された昭和10年(1935)、戦前にもかかわらず、多色刷りで、緑色表紙の算術(算数)教科書がつくられました。今ではカラーで挿し絵がたくさん入っている教科書は当たり前ですが、当時としては珍しくかなり話題になりました。『小学算術』の第1学年上巻〈各学年2冊からなる〉の巻頭には、紅白に分かれて玉入れ競争をする挿し絵が描かれています《写真》。1年生に玉を数えさせることで、算数に親しめるように考えられたのでしょう。このように上巻は、色刷りの挿し絵のみで構成され、下巻(昭和11年刊)は挿し絵と問題がカタカナと数字で記され、学年が進むごとに色鮮やかな挿し絵は減っていきます。4学年下巻(昭和14年刊)では、初めて4つ珠の算盤が使用されました。珠算の単元がこの巻の全体にわたって扱われ、珠算や暗算が重視されていたことがわかります。ちなみに、第1学年の算術教科書に挿し絵を描いた人は多田北烏(ただほくう)(1889~1948)と言われてます。この人は、教科書のほかに、講談社の絵本などの児童向け出版物や、キリンビールのポスターなどの広告も手がけていたそうです。